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一歩間違えれば破綻の道が待ち受けている修羅場が経営者を鍛え、ふるいにかけたのです。
内向きの体質の企業は淘汰されました。
今再び、グローバル化、情報化などで経営環境は大きく変わり、企業の舵取りが非常に難しい時代に入りました。
これは経営を刷新するには大いなるチャンスです。
良質な経営はより一層優位に立ち、従来の悪弊を引きずる経営は一段と苦しい立場に追い込まれます。
では二十一世紀型の優れた経営とは、どのような条件が必要なのでしょうか。
顧客志向、知的資本、現場主義、全員参加、倫理性・社会性など、かつて見られた活力あふれる経営と本質的には共通します。
具体的には、まず徹底した「市場志向」の経営がすべての出発点になります。
市場に焦点を合わせて、顧客の潜在的なニーズを探り出し、それに合った商品、サービスを供給できるかどうかが、これからの企業の消長を決めます。
今やくどくど言わなくても常識ですが、実際には言うは易く行うは難しです。
なぜなら多くの企業は大量生産大量販売の時代に成功を収め、ものの考え方から人事、組織のおり方まで市場志向とは対極にあるからです。
トップの手腕を社員は見ている 例えば日本軽金属は、市場から発想する体制に切り替えるという意味で「マーケット‐イン」を、二〇〇六年度までの中期経営計画の重要なテーマにしています。
同社は二〇〇一年三月期決算で大幅赤字を出して無配に転落し、前社長が引責辞任して佐藤薫郷社長が副社長から昇格しました。
不採算事業からの撤退、過剰設備の処理、人員削減などを進めたのは当然ですが、それだけでは成長は期待できないため、「市場」に軸足を置いた経営への転換を佐藤社長は目指しています。
同社は日本で唯一残るアルミ電解精錬工場を持ち、ボーキサイトからアルミ地金、加工品、最終商品までアルミ製品については幅広く手がけています。
アルミに関する相談なら何でも応じられるだけのバラエティーのある事業を展開しているわけですが、「設備が稼いでくれるという発想で、設備投資をどんとやって、しばらくはいいが、やがて儲からなくなるという繰り返しだった」と佐藤社長は反省しています。
基本的に販売は商社任せで、「ユーザーを知らなかったので、加工分野をやっているといっても、板を切って箱を造る程度にとどまっていた。
しかし付加価値をつけるにはマーケットを知ったうえで事業を展開しなければダメだ」(佐藤社長)と決意したのです。
しかし小手先のやり方で、安直にできる話ではありません。
「市場志向というのは、当社にとっては社風を変えることになる」(同)のです。
「山から下りてきなさい」。
S社長が研究開発陣に投げかけた象徴的な言葉です。
S県K町にある研究開発拠点であるグループ技術センターの研究開発スタッフに、もっとユーザーを訪ねて歩きなさいという呼びかけです。
市場のニーズを知らずして、ユーザーに歓迎される付加価値の高い商品は生まれないからです。
掛け声だけでなく、組織を変えました。
同社は伝統的に、製造プロセスから派生した製品ごとのくくりから事業部門を分けていました。
アルミナ、化成品、メタル合金、板・押出し製品、建築・建材などの製品系列で製造から販売まで分かれていました。
生産を中心に考えるまさにプロダクトアウト型の組織だったわけです。
このため例えばメタル合金を売る営業は、ユーザーがアルミ板の加工品を必要としていても、他の事業ユニットの製品は面倒なので積極的に売り込みません。
このままではいくら「マーケット‐イン」が大事だといっても変わらないので、「横串」を通しました。
事業部門の製品を横断的に扱うチームを設けたのです。
自動車業界に対応する自動車チームやトラック・鉄道チーム、電気・電子チーム、建築構造材チームを結成して、日軽金グループの経営資源を総動員して新しい需要を掘り起こす体制を敷きました。
社長直轄の商品化事業化戦略プロジェクト室が事務局になり、目標を立て進行状況をチェックしています。
横串チームにはフットワークのよい若手を起用して、これまでの常識にとらわれずに新しい事業機会の開発に取り組ませています。
グループ技術センターはこれに二人三脚で加わるとともに、ニーズに即したテーマを提案して独自の開発も進めます。
「新製品なくして成長無し」が全社的なスローガンで、新商品・新規事業による利益増を同社では目指しています。
二〇〇六年度には新規による営業利益を七十億円超に増やし、連結決算での営業利益の四分の一に持っていく計画です。
K社の業績は景気回復の影響もあって計画を上回るペースで回復していますが、中計の最終年度の二〇〇六年度に五円配当を実施できて、やっと「普通の会社」に戻れる程度にすぎません。
高度成長期に好業績を謳歌していたことが夢のようです。
S社長は「強い会社」を目指して手を緩めるつもりはありません。
毎月、業績検討会を開き、各事業や主なグループ会社のトップから実績、見通しを聞き、計画の修正が必要と判断すれば即決します。
ユーザーや工場などの現場もよく歩きます。
毎週、イントラネットを通じて、今社長として取り組んでいる問題や考え方を社内に流しています。
「社長が動けば、テコの原理で会社全体で百の動きになる」と考えるからです。
会社変革はトップの手腕が試される力仕事です。
市場志向の経営を定着させるには、共同体的な体質を徹底的に排除しなければなりません。
具体的には大きなリスクを伴いますが、企業の構造を根底から変えることが必要です。
その手段の一つとして持株会社制やカンパニー制(社内分社)などの組織改革を多くの企業が試みています。
その一例としてA社を見てみましょう。
同社は二〇〇三年十月から純粋持株会社制に移行しました。
Y前社長(現常任相談役)は「高度成長時代は改善、インプルーブメントでよかった。
それからリエンジニアリング、改革が出てきたが、これもそろそろ終わりだ。
今やトランスフォーメーション、変革に取り組まなければいけない。
仕事や事業のやり方を全く新しいものに変える必要がある」と背景を語っています。
同社はカンパニー制にまず改めてから純粋持株会社制になるという二段階方式をとりました。
長い間に根付いた共同体的体質を払拭しようと工夫を重ねた結果です。
旭化成は高度成長期に「ダボハゼ」と郷楡されるほど積極的に多角化を進めました。
キュプラ、レーヨンといった化学繊維からアクリル、ナイロンなどの合成繊維や石油化学に進出し、さらに建材、住宅、食品、医薬、半導体などに手を広げて、同社は事業規模を拡大してきました。
しかし利益に結びつかず、何のための多角化だったのかという反省を迫られることになりました。
いつの間にか社員が職場と生活を維持するための多角化になっていたのではないか。
赤字部門は黒字部門から利益補給を受けて存続し、社員はみな同じ給料とボーナスを受け取る。
みんなで乏しきを分かち合う″ムラ社会″の論理がまかり通るようになっていたわけです。
これを改めるため、同社は資本コストも勘案して事業を洗い直し、レーヨンやアクリル繊維、食品などから撤退しました。
「市場で評価される経営でなければならないという認識が今まで、当社には欠けていた。
これから本当の株式会社になるのだ」。
Y氏の問題意識は明快です。
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